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『 テトラの森 』

04

「到着!」
あっという間にリニアは目的地に着いた。約10分弱といったところかな。サンドウィッチを選んでよかった。がっつりしたお弁当頼んでたら食べきれ無かったよきっと。
ここは、「富士山麓駅」何のひねりも無い駅名。でも、かつてここから大きく聳え立つ富士山が見えていたということを物語ってくれている。
今は…というと、何度も言う様に、そんな面影は一瞬たりとも感じない。
駅を出てすぐ見えるのは広大であろうと想像させる森。
そして、その間を一本道が長く長く伸びている。恐らく道の最後には富士の山を隠している巨大な壁にぶち当たるのだ。鉄で覆われ、唯一の出入口であるゲート を通らなければ誰一人入ることは許されない。そのゲートの番人が、今日から一ヶ月間、私というわけだ。こんな蛇の生殺しは早々無い。
「さてと、ここからはオートカーじゃなくてリニアスケボーにしましょうか」
端末がその声に反応し、リニアスケボーを手配してくれる。
リニアスケボーとは、その名の通りスケボーにさっきまで乗っていたリニアの技術を応用させたものだ。難しいことは良く分からないけどとにかくこういうこと、手軽で早く気持ちよく移動できる手段というわけ。
おっと解説している間にリニアスケボーが到着した。
さて、乗りますか。
「ちょっと急ぎ目で、でも景色を楽しめる速度」
声を認識した合図である、機械音を鳴らし、スケボーは動き出す。風が顔、体全体にあたる。少し蒸し暑いと感じていただけに、この風は丁度良く私の体温を冷やしてくれる。
「うーん、最高!」
真弓や手崎君にもこの感動を味合わせてあげたい!ただし、代金として時間を数時間いただく。もちろん、それ位の価値はある。
「らららーるるららーこの旅でーるるーー」
思わずいつも聞いている曲を口ずさむ。微妙に歌詞はうろ覚えだ。ま、誰も聞いていないからいっか。
「ふんふんふんー会いたいーわが友よーららー」
「へったくそな歌だな」
「はぁ、いい歌じゃない」
「原曲は良いかも知れないけど、こう適当に歌われたらな……」
「余計なお世話……って」
あれ、私今、誰も居ない森の中を一人でスケボーで走っている……はずだよ、ね?
私の心拍数に呼応してスケボーがゆっくりと止まる。
まって、落ち着け私。考えるんだ……
整理しよう。
今、私は気持ちよくスケボーに乗りながら歌を歌っていた。それを聞いた誰か……Xとしましょう。そのXがへたくそだとののしった。それに私は良い歌じゃんんと反論した。そしたらまたXが原曲はいいが私が適当に歌ったと……
誰、Xって!?
「X!誰よ、出てきなさい」
「なんだよXって。意味わかんねえ」
「い、いたーーーーーーー!」
なんと、Xはいつの間にか私の真横に居た。
瞬時にスケボーから下り、距離をとる。こういう時、ホログラム使って空手鍛えといて良かったなと思う。
Xと思しき人は、濃い灰色をしたマントに全身を覆っている。足には真っ黒い布をブーツのように巻きつけている。肌が見えるのはかろうじて口周りだけだった。
「変わらないなぁ……」
「ど、どういうことよ」
「今に分かる」
「ねぇ、ちょっと!説明しなさっ……」
灰色のマントの人はそれだけ言って森の中へ入り、あっという間に姿を消してしまった。追いかけたいのは山々だけど、磁気の効く道路が無い、森の中である以上、リニアスケボーで追いかけることが出来ない。自分の足で走って、追いつく自信は全然無い!断言できる。
それにしてもさっきの人……まるで私が誰だか知っている様な口調だった。
だとしたらなぜ、私の前に現れてあんなこと言って消えたんだろう。そしてあの服装。私が住む所に、布を足に巻いて靴の変わりにしている人は居ない。
謎過ぎる。Xは今に分かるって言っていたよね。それってもしかしてまた私の所に来るって事……?
これは、のんびりしていられない!
私は再びスケボーに話しかけた。
「急いで」
私はしゃがんだ。こうすることで風の抵抗が少なくなり、スピードを上げやすくなる。スケボーはそれを確認して一気に全速力で走りだした。
せっかくの景色が一瞬で後ろに行く。普段の私ならばもったいないと嘆くところだけど、今はあの謎の人の正体を暴くのが先。見てなさい、絶対にさっきの「へたくそ」発言取り消してもらうんだから。
 
 

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